遺言を書くときは要注意

直近の最高裁判例のご紹介です。ポイント部分だけでもご参考になさってください。遺言は遺族の「争族」を防止し、円満な「相続」のために必要です。
Q.遺言書の作成者が遺言書の文面全体の左上から右下にかけて赤色ボールペンで一本の斜線を引いたら、遺言は無効になるの?

遺言書の破棄に関する最高裁判例(平成27年11月20日)
<ポイント>
◆遺言者が遺言書を破棄すれば遺言書は「無効」に
◆遺言書の一部改変については遺言「作成形式」による必要
◆読める状態であっても全体に斜線を引けば「破棄」
(総括)※遺言者が遺言書の効力を失わせたい場合には、シュレッダーにかけるなどはっきりとした処理を行うことがのぞましい***********************************************************************************
<説明>
(事案)遺言書の作成者が、遺言書の文面全体の左上から右下にかけて赤色ボールペンで一本の斜線を引いたことが、民法1024条前段の「故意に遺言書を破棄したとき」にあたるかどうかが争われた。
(条文)「遺言者が故意に遺言書を破棄したときは、その破棄した部分については、遺言を撤回したものとみなす。」(民法1024条前段)
(争点)
Q.「破棄」とはどのような行為か?
1.第1審広島地裁(平成25年11月28日)
2.第2審原審広島高裁(平成26年4月25日):遺言は有効
(理由)遺言者が斜線を引いた時点では少なくとも一時的に撤回の意思を有していたことを推認。しかし他方、遺言の撤回については、遺言の方式に従って行うことが要求されることから、これと同じ効果が導かれる遺言書の破棄の定義についても厳格に解釈されるべきであり、焼き捨て、切断、一部の切捨てなど遺言書自体の有形的破棄の場合のほか、遺言書を抹消して、内容を識別できない程度にする行為も破棄に当たるが、元の文字を判別できる程度の抹消であれば、破棄ではなく、変更ないし訂正として一定の形式を備えない限り元の文字が効力を持つことになる。そして本件では、遺言書の文字は判読できるので破棄にあたらないうえ、遺言者が斜線を引いたのちの遺言書を金庫に保管していたことからも、遺言の撤回という効果を認めることは妥当ではない。
3.最高裁判例(平成27年11月20日):遺言は無効
原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反があるとして判決を取り消し、「遺言を無効」と判断。
(理由)
民法は、遺言書に改変を加える行為については、遺言の方式に従った厳格な方式を遵守することを要求しているが、これは遺言の効力を維持することを前提にしているのであるから、抹消後も元の文言が判読可能であれば、厳格な方式を具備していない限り抹消としての効力を否定するという判断もあり得る。ところが、赤色のボールペンで遺言書の文面全体に斜線を引く行為は、その行為の有する一般的な意味に照らして、その遺言書の全体を不要のものとし、そこに記載された遺言の全ての効力を失わせる意思の表れと見るのが相当であるから、その行為の効力について、一部の抹消の場合と同様に判断することはできない。=遺言書全体をなかったことにする破棄の場合には、遺言書を一部生かす形での改変の場合のように厳格な要件を認めるべきではないと判断。